子供の膝のスポーツ障害(慢性障害)

 スポーツをされているお子さんは様々な場所に腫れや痛みを訴えますが、中でも膝の周辺の障害は周囲の人にはわかりにくく、かつ、見た目以上に重症であったり、治療開始が遅れると、手術になったり、後遺症が残ったりする場合多いので注意を要します。この中には、外傷によっておこる障害(捻挫、骨折等)と、激しい運動を続けること(オーバートレーニング)によっておこる慢性障害があります。予防や治療にはどんな方法があるかについて、簡単な知識をお知らせします。今回はオーバートレーニングによる慢性障害についてです。

痛みを起こした原因と治療
 お子さんが膝の痛みを訴えられた時、痛みの状態を、病院に着くまでに詳しく聞いておいてください。いつごろから、また、何をしてから痛くなったか、どんな動きをしたときに痛いか、運動をしないときでも痛いか?等を聞いてください。痛みの状態を詳しく医者に伝えることが、診断や治療には非常に重要です(お子さんは診察室に入ると、うまく言えない場合があります)。

病院を受診する時期
 お子さんが膝に痛みを訴えたとき、打撲や捻挫をした場合は早めに病院に来てください。そうでなくて、毎日の運動で、徐々に痛くなった時やある動作をした時だけ痛みを感じる時には、4~5日運動をひかえてシップをして痛みがなくならないか、試してみてください。たいていの場合病院に来ても、運動の中止を指示されますから同じことです(ただし、試合が近い時や、監督やコーチに言いにくくて医者の指示がほしい場合は別です)。運動の中止で痛みがなくなったが、運動を再開してまだ痛みがあるときには、もう一度運動を控えてみてください。このようにして、10日~2週間様子をみても治らないときや、運動の中止によっても傷みが続くときには、早めに(少なくとも3週間以内には)病院を受診してください。3週間以上放置すると、治りが悪くなります。【このことは、肘、足の痛みの場合も同じですが、肩や股関節(足の付け根)の痛みの場合は、傷害の種類によっては早期の治療が必要なものもありできるだけ早め(4,5日)に受診されたほうがいいかと思います】。

障害の種類
 運動のやりすぎ(オーバートレーニング)による膝の障害の代表的なものを挙げます。
1)膝進展機構障害
 ほとんどのスポーツで、ダッシュやジャンプをしますが、この際には、膝を強く伸ばす(進展する)力が働きます。この膝を伸ばす運動は、太ももの前方の筋肉(大腿四頭筋)の力がおさらの骨(膝蓋骨)を介してすねの骨(脛骨)に伝わり、すねを前方に引き上げるのですが(図1)、この際に、骨と筋肉(腱)がくっついている部分に強い力が加わります。子供はこの部分が弱く、炎症を起こしたり、骨や軟骨が引っぱられて剥離してし
まうことがあるのです。
障害を受けた部位により病名がついています。
a)分裂膝蓋骨:おさらの骨の一番上の部分の腫れ、痛みがあります。
b)ラルセン病:おさらの骨の一番下の部位の腫れ、痛みがあります。
c)オスグット病:膝の下、すねの骨の隆起部の腫れ、痛みがあります。
 これらの障害では症状が軽い場合は3~6週間の薬と安静で軽快しますが、症状が重い場合や早期にスポーツを復帰を希望する場合は、
サポーターを装着します。
また、大多数の例では、成長期が終了すると症状は軽快し、大人になっても症状が残る場合はほとんどありません。

2)膝の周囲の筋肉や靭帯の炎症
a)腸脛靭帯炎:膝の外側にある大きな靭帯が骨と擦れて炎症を起こします。ランナーに多い障害です。
多くは短期間の薬と安静により軽快します。
b)大腿四頭筋炎,大腿二頭筋炎,鵞足炎:膝の曲げたり伸ばしたりする筋肉が炎症を起こし痛みをきたす障害です。大事に至ることはなく、多くは短期間の薬と安静で軽快します。

3)離断性骨軟骨炎
膝の先天的な靭帯や半月板の異常に、過激な運動が加わって、関節表面の軟骨や骨が部分的に血行不良となり剥がれてしまう病気です。
まれな疾患ですが、長期の安静を要し、見逃されると、大人になってから大きな障害となります。

 なお、けがやうちみの初期治療についての医学入門書(けが・うちみ・ねんざの first aid) が待合室の書架にあります。小書の“膝関節腫脹”(P80) を私(吉田成仁)が執筆しております。今回の慢性障害についても若干の記載がございます。興味のある方はご覧ください。また、最後に説明しました離断性骨軟骨炎につきましては、骨粗鬆症とともに私の大学での研究テーマで、若干の知見をもっているつもりです。(どちらも10ページの英語論文を書いています)もし、知人等でこの病気でお悩みの方がいらっしゃいましたら気楽にご相談ください。